ロボットのひみつ
- 作成:2002/08/19 最終更新:2003/08/21
- 著者:藤木てるみ
- 初版:昭和60年8月1日
−ロボット三原則−
第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、人間に危害が及ぶのを見過ごしてはならない。
第二条 ロボットは人間の命令に服従しなければならない。ただし、第一条に反する命令についてはこの限りではない。
第三条 第一条、第二条に反しない範囲で、ロボットは自分自身を守らなければならない。
(アイザック・アシモフ)
◆ストーリー、構成
●はじめに ロボットって何だろう?
学くん(主人公)の元に、パン屋のおじさんからはがきが届く。
"学くん、おじさんの工場ではロボットがパンを作っているんだよ。ぜひ見においで!"
このはがきを読んで、いわゆる「人間に似た形のロボット」がパンを作っている姿を 想像する学くん。 学くんは妹(ヒカルちゃん)といっしょに見に行くことに。 しかし実際は、いわゆる工業型の、人間とは似ても似つかないタイプのロボットだった。
"「人間の形をしたロボットがパンを作ってるんじゃないの?」"
"「それはまんがに出てくるロボットだよ。」"
帰り道、ロボットについての疑問が浮かんでくる二人。
"「でもロボットってどこの国のことばかしら…」 「日本語じゃないよなあ。」 「それに、どんな意味なのかしら…」 「うん、それは、あの…、その…。」"
そこに(唐突に)、カレル・チャペックが登場する。
(「ロボットのひみつ」、学習研究社、藤木てるみ、7ページ)
チャペック "「ロボットとは、チェコのことばで「労働する」という意味のロボータから作ったんだよ。"
学くんらはチャペックとともにロボットの歴史等を学ぶことに。
●第1章 ロボットの歴史
ここでは、以下に示したような、古代から現代までのロボットの歴史が語られる。
(1)「神話や伝説、小説や映画に出てくる空想のロボット」
- ギリシャ神話のターロス、ぜんまい仕掛けのニワトリの人形、ユダヤの伝説のゴーレム、西行法師の反魂の術による人造人間、フランケンシュタイン
(2)「いろいろなしかけで自動的に動く自動人形の登場」
- 1738年に作られた『ヴォーカンソンのアヒル』や、スイスのドロス父子の自動人形、日本の茶運び人形などの紹介。(『ヴォーカンソンのアヒル』については以下の引用参照)
(「ロボットのひみつ」、学習研究社、藤木てるみ、32ページ)
(3)「いよいよ科学の時代がやってきて、金属のロボットが登場。」
- 1920年代から30年代にかけて作られた金属製の人間型ロボットが紹介される。
(この(3)で、あの「先行者」をも超越しうる壮絶なロボットが 紹介されるのですが、それについては後ほど紹介します)
(4)「ロボット三原則」 - 有名なSF作家 アイザック・アシモフが登場。「ロボットが守るべき法律」=「ロボット三原則」が 紹介される。(このページの冒頭に引用したものです)
(5)シーケンス型ロボット
(6)プレイバック型ロボット
(7)数値制御型ロボット
(8)知能型ロボット
- 現在(註:この本が出版された当時)の、様々な産業型ロボットが紹介される。
●第2章 ロボットのしくみ
学くん、妹、チャペックはロボット展に行き、合流した漫画家のおじさんと、 ロボットの構造について勉強を始める。
(1)歩くしくみ(足) 歩くときの重心のバランスのコントロールなど、ロボットの歩くしくみについて説明される。
"<現在作られている二本足ロボットは、人間でいえば、三才の幼児みたいによちよち歩きしかできないんだ。>"*1
(2)持つしくみ(手のひみつ) 人間の手のしくみや、物をつかむ際の力加減等について語られる。 アメリカの産業用ロボット『バーサトラン』や、電子オルガンを演奏するロボットの紹介もあり。
(3)見る、聞く、触る、嗅ぐしくみ 人間の目、鼻、手足等の役割と、ロボットにそれらの知覚を実現させるための センサー(超音波センサー、視覚センサー、音声入力センサー、圧覚センサー、 力覚センサー、バイオセンサーなど)の紹介。
(4)考えるしくみ(頭脳のひみつ) 学くんと、「毎秒一億回の計算ができるスーパーコンピュータに動かされている」 ロボットが知恵比べで対決する。
学くんは問題に簡単に答えられたが、ロボットは答えられない。
"「じつはね、こういうわけがあるんだ。」 「コンピュータは算数のようにはっきりと解き方の手順が 決まっている問題ならすぐ解けるけど…」 「自分で考えながら解かなければいけない問題は苦手なんだ。」"
このように、人間とロボットを対比する形式で、人間の推論や直感・連想能力と、 それをロボットに実現させることの困難さが示される。 また、ロボットの頭脳にあたるコンピュータの構造(いわゆるCPUやメモリや2進法)に ついての説明もある。
●第3章 未来のロボット
科学が発達した未来で、登場することが予想されるロボット (バイオロボットや特殊環境ロボット)についての説明。
特徴
「ひみつシリーズ」後期の良作
私事になりますが、筆者がひみつシリーズや事典シリーズを 読んでいたのは中2から中3のころまでで、特に中学生になってからは ひみつシリーズは殆ど読まなくなりました。このころ、ひみつシリーズは NHKのクイズ面白ゼミナールとかのタイアップ本が多くなって、あまり興味が もてなかったのと、内容が幼稚っぽく感じられてしまったためです。 (実際、ひみつシリーズの対象年齢は小学校中〜高学年くらいで、中学になるとちょっとキツい)
したがって ひみつシリーズの後半(番号で言うと50番代半から60番代)は リアルタイムでは読んでおらず、最近になって再度集め始めてから初めて読んだものが ほとんどです。この「ロボットのひみつ」もその一つです。
さて、まず結論からですが、この本は非常によくできてます。 身近な話題からロボットについて 読者に興味をもたせている導入部分が巧妙で、 また各キャラも親しみやすく、それにロボットの構造やコンピュータの仕組みといった 比較的難しい話題についても、まんがの中で分かりやすくうまく説明されています。 (この辺は藤木てるみの力量が非常によく出ている)
さすがに内容については、現在と比べると古くなってしまった部分もありますが、 ロボットの歴史や近年のロボットの発展についての理解の助けになり、お勧めです。 (写真や図版も多く資料としても役立ちます) 未読の方はご一読をおすすめします。比較的新しく発行されたので、古本屋等でも 見つけやすいと思います。
ツッコミどころ
(自称)電動ロボット第1号の悲哀
さて、第1章(3)での「壮絶なロボット」っていったい何だ、とお思いの方も おられると思いますので、ここで紹介します。 この節で、チャペックが
さて、一九七二年のことだ。アメリカのニューヨークで電気をつかったロボットが現れた。
〔高橋註:「一九七二年」というのは「一九二七年」の誤植だと思われる〕
(「ロボットのひみつ」、学習研究社、藤木てるみ、36ページ)
と言って紹介している、人間型の電動ロボットがそうです。 まず37ページ最初のコマの、その電動ロボットの説明文から引用しましょう。
一九二七年、アメリカで作られた電動ロボット第一号の『テレボックス』。 体の中に電信装置と録音装置が入っている。 テレボックスとは『電話の箱』の意味。
(「ロボットのひみつ」、学習研究社、藤木てるみ、37ページ)
つまり、電動ロボットの記念すべき第一号ということです。 それまでの、ロボットの親戚たち(自動人形等)は、蒸気やぜんまい仕掛けの動力で 稼動していたわけでしたが、現在の最先端のロボットのように主に電力で稼動するタイプの ロボットは、このテレボックスが世界で最初というわけです。 この37ページの最初のコマを読んだとき、私は、 最初のロボットってどんなものなんだろう……という期待でいっぱいになりました。
それでは、記念すべき電動ロボット第一号テレボックスをご覧頂きます。
■テレボックス■
(「ロボットのひみつ」、学習研究社、藤木てるみ、37ページ)
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これが記念すべき電動ロボットの第一号らしい。(……
なんか板に電話みたいな機械をくっつけたようにしかみえないんですが。 (学くんも37ページで<なんだ、板ぎれの人形じゃないか。>って突っ込んでます……) これをロボットと呼んで良いのなら、よく町に立ってるあのお巡りさんの看板も ロボットって呼んでよいような気がするんですが。 (それに 前に置いてある扇風機みたいなのは一体なに?)
もう 指摘すべきところが多すぎて指摘しきれませんが、一つだけツッコみます。
(「ロボットのひみつ」、学習研究社、藤木てるみ、37ページ)
なんでこれほどまでに歯をむきだしにするのでしょうか。
また、この(自称)電動ロボットの説明のコマが傑作ですので、以下に引用します。
(「ロボットのひみつ」、学習研究社、藤木てるみ、37ページ)
動けないってのもポイント高いですが、なによりこのコマで ただでさえ適当な テレボックスの顔がさらに適当に書き直されているのが素晴らしいです。
最初にここを読んだ時、マジで呼吸困難になるほど笑いました。